「子供が生まれた!!」とても幸せな瞬間だと思います。
でもその時、仕事はどうなるのでしょうか。また、子供の育児に手がかかる時期、仕事を休むことはできるのでしょうか。
産休や育休という言葉は聞いたことがあるけれど、詳しくは知らない。「どんな時にとれるの?」「お給料はどうなるの?」「休暇を取ったことによって不利益(給料カットや解雇)にはならないの?」などなど、育休や産休について疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな身近な産休制度についてご説明します。
※本ページは過去3回分の「産休」についてのコラム、第一回「産休の種類と期間」、第二回「産休を上司に拒否されることはないの?」「産休の期間中お給料はもらえるの?」、第三回「産休を取得することで不利益な扱いを受けることはないの?」「産休って私でもとれるの?」をまとめたものです。
分量も長めになっておりますので、上記3回のタイトルに知りたい項目がありましたらそちらのページもご利用ください。
まず、産休についてご説明しましょう。
一般に産休と言いますが、労働法の本などには「産前産後の休業」などと書かれていることがあります。この書き方を見ると産休には、「産前」と「産後」の2種類の休業があることがわかります。
実は、法律上は「産前」と「産後」の休業は別々に規定されており、要件も期間も違うのです。
いわゆる「産休」(このページでは、産前産後両方の休業を指す時に「」をつけ「産休」と書きます。)について定めているのは、労働基準法(このページでは「労基法」と書きます。)の65条です。
労基法65条1項にはこう書いてあります。
「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、そのものを就業させてはならない。」
この規定は、出産予定の女性について書いているので「産前休業」についての条文ですね。
続いて、労基法、65条2項にはこう書いてあります。
「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務につかせることは差支えない。」
この二つの条文を読んで、気付かれた方もいると思いますが、この二つの制度には大きな違いがあります。
「産前休業」には、「請求した場合」と書かれているのに対して、「産後休業」については、「産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」と書いてあります。
そうです、「産前休業」については、請求が必要なのに対して、「産後休業」については、「就業させてはならない。」と書いてあって、請求の有無にかかわらず働くことを禁止しているのです。(例外的に産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務につかせることは、許されています。)
両者は請求を必要とするか、任意的か絶対的かという点で違いがあるわけですね。
要するに「産前」は頑張って働くこともできるけど、「産後」は少なくも6週間は働けないということですね。
また、期間についても6週間と8週間で違いがあります。
合計すると「産休」の期間としては、最大で14週間となるわけですね。
(多胎妊娠の場合には20週)
まずは、「産前」と「産後」の休業で異なる部分を説明しましたが、両方の制度で共通している部分もあります。
まず、「産前休業」については、6週間(多胎妊娠の場合は、14週間)以内に出産する予定の女性が、請求した場合、「就業させてはならない。」と書いてあります。
つまり、上司たち(使用者)には、拒否権がないのです。
「産後休業」については、上に書いたように、請求が無くても休ませなくてはならないのですから、そもそも、拒否される心配がありません。
要するに、「産休」は要件さえ満たせば、上司が拒否することはできないのです。
では、次に、「産休」を取った場合に、給料が支払われるかについてみてみましょう。
まず、お給料をもらう時の大原則ですが、こんな言葉があります。
「ノーワークノーペイ」
意味はそのまま、「働いてないなら、お給料は払いません!」という意味です。
某音楽販売店のキャッチフレーズのようですが、こっちはちょっと厳しいですね。
この原則には、例外もあります、皆さんよく御存知の「有給休暇」です。
では、「産休」はこの「ノーワークノーペイ」の例外にあたるのでしょうか。
答えは・・・
「ノー」
「産休」は、上司に拒否権がなく、確実に休める制度なのですが・・・
原則として、会社からお給料・・・出ません。
「そんなの困る!子供が生まれてお金もかかるのに!」と思われた方が多いのではないかと思います。
では、全くお金がもらえないのかというと、そうではありません。
場合によっては、健康保険から手当金を受けることができます。
(詳しくはこちらの外部サイトのリンクを参照。全国健康保険協会「出産手当金について」)
また、場合によっては会社が手当等を用意している場合もあります。
「産休」を取るときには、「自分が手当をもらえるのか」「いくらもらえるか」確認した上で、いつから「産休」を取るか考えるとよいでしょう。
産休を取得した場合、解雇されたり、給料をカットされたりといった、仕事上不利益なことが生じないのか、不安を感じる方も多いのではないのでしょうか。
この問題については、雇用機会均等法の第9条にこんな規定があります。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止等)
第9条
第1項
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、または出産したことを退職事由として予定する定めをしてはならない。
第2項
事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
第3項
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条2項の規定による休業をしたことその他の妊娠または出産に関する事由であって、厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
第4項
妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明した時はこの限りではない。
はい、少し読みづらい部分もありますが、第9条3項に書いてある通りですね。
「産休」を利用したことによって、「解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。」と心強い言葉があります。
つまり、「産休」を利用したことを理由に、解雇したり不利益に取扱ったりすることは、法律上禁止されているのです。(雇用機会均等法第9条には、他にも女性にとって心強い言葉が並んでいますね!)
なお、雇用機会均等法の名称は、正式には「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」という長い名称です。
「産休」の適用者には限定がありません。「派遣」「パート」等関係なく適用があります。
但し、ここでは労基法上の「労働者」であることが大前提です。「労働者」の説明はまた別の機会にしますが、基本的に、会社員とかサラリーマンといった人たちを想像して頂ければいいと思います。
さて、ここまで「産休」について書いてきましたが、長くなってきてしまったのでまとめてみましょう。
①産休には「産前休業」と「産後休業」の2つの種類がある。
②「産前休業」は出産6週間以内の女性が請求すると取得できる。
(多胎妊娠の場合は14週間以内)
③「産前休業」の期間は最大で6週間。
(多胎妊娠の場合は14週間)
④「産後休業」は原則として、8週間取る必要がある。
但し、例外的に産後6週間を経過していて、医師がOKすれば、働かせてもらえる場合がある。
⑤「産後休業」の期間は最大で、8週間、最低でも6週間。
⑥「産休」は上司たちに拒否権がない制度。
⑦お給料をもらう時の原則は「ノーワークノーペイ」。
⑧「産休」の期間中原則としてお給料は出ない。
⑨場合によっては、健康保険から手当が出ることがある。
⑩会社によっては、出産手当等が用意されている場合もある。
⑪「産休」を取ったことによる、不利益取り扱い(解雇等)は法律上禁止されている。
⑫派遣とか、パートとか関係なく労基法上の「労働者」であれば適用される。
どうでしょうか、「産休」について書いてきましたが、参考になりましたでしょうか。
「産休」の制度を知ったうえで、上手に利用しましょう。
そして、「産休」に関して職場でトラブルが生じたら、迷わず、弁護士に相談してください。
「地域一番の温かい弁護士事務所へ」
サガミ総合法律事務所
(相模大野駅北口より徒歩3分)