相続にまつわるあれこれについてのコラムです。
今回から、相続法改正について触れていきたいと思います。
平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、同月30日に公布されました。
今回の改正については、高齢化社会の進展に対応するための改正であり、様々な観点からの改正がされております。
今回は、そのうち、配偶者の居住を保護するための方策についてご説明します。
現行法においては、配偶者の法定相続分は、被相続人の子が相続人である場合は2分の1、子がおらず、直系尊属が相続人である場合は3分の2、子がおらず、直系尊属もすでに亡くなり、兄弟姉妹が相続人である場合には4分の3と定められていました(民法第900条)。
しかしながら、配偶者の居住に関するという規定はなかったため、遺産分割により居住不動産の所有権を配偶者が取得する場合には、遺産が潤沢で、他の相続人にもそれぞれの遺産が行き渡れば格別、生存配偶者が居住している不動産が相続財産の主要部分を占めるような場合には、配偶者は、他の相続人に代償金を支払うことが必要になっておりました。この代償金を用意できない場合、生存配偶者は、遺産分割以降は、これまで住み慣れた住居を離れ、他の場所で生活しなければならなくなることになります。
また、遺産分割成立までの間の配偶者の居住権についても、判例上、「共同相続人の1人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居していたときは、特段の事情のないかぎり、被相続人と当該相続人との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。」として、被相続人と生存配偶者との間の合理的意思解釈をすることにより、生存配偶者の保護を図ってきました。
しかしながら、この点についても、被相続人が明確にそれと異なる意思を表示した場合には、意思解釈による生存配偶者の保護を図ることができない状況でした。
そこで、新法においては、配偶者居住権が定められました(新法1028条)。
配偶者居住権とは、一定の要件のもとで、被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた建物全部について無償で使用・収益する権利をいいます。
配偶者が配偶者居住権を取得するためには、①被相続人の財産に属した建物に、②相続開始時に、③無償で、④居住していたことが必要になります。
居住建物は、被相続人が単独所有していたものでも、配偶者と共有していたものでも構いません。
生存配偶者は、遺産分割又は遺贈によって、配偶者居住権を取得します。
また、共同相続人間の合意または配偶者自身の請求によって、家庭裁判所の審判で配偶者居住権を取得することも可能です。
配偶者居住権の存続期間は、原則として終身ですが、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判
で別段の定めをすることも可能です。
居住建物の所有者は、配偶者居住権の設定の登記をする義務を負い、この登記により、配偶者居住権は、第三者に対抗力を備えることになります。
現行法において、判例上、使用貸借契約の推認によって認められていた相続開始時から遺産分割終了までの居住権については、配偶者短期居住権として明文化されることになりました。
配偶者短期居住権とは、生存配偶者が相続開始時に無償で居住していた建物に、一定の短い期間、無償で居住する権利をいいます。
配偶者短期居住権の要件は、上記の配偶者居住権の要件と同様、①被相続人の財産に属した建物に、②相続開始時に、③無償で、④居住していたことが必要になります。
要件を満たした生存配偶者は、遺産分割が行われる場合には、分割による建物の帰属が確定した日、又は相続開始から6か月経過する日の、いずれか遅い日までの間、無償で建物に居住することができます。配偶者以外の者が建物を取得する場合には、消滅の申入れから6か月を経過するまでの間、居住することができます。
配偶者短期居住権は、使用貸借類似の権利であり、第三者に対する対抗力はありません。
以上、相続法改正の1つのテーマである配偶者居住権について触れてきました。
相続法改正を受け、今後、配偶者の方は、遺産分割協議における方針、戦略が変わってくることと思います。
ぜひ、お早めにご相談ください。